岩波文庫は決定版に加え初版から削られた話を含めて全5冊、多いなあと思いつつ頁をめくると訳がいい。中にはこれは日本の昔話なのではと感じてしまう程の訳まである。
不思議なことにどこにでもあるような話もある!? 例えば竹取物語似。どっちがオリジナルか、それともシンクロかはわからないけど。何回かリピートして増幅しながらの変奏、あっけない結末というパターンものも幾つかある。単に残酷なだけで終わる話から、人間の欲や、貧乏と王様王妃との世界の落差、神通力、恩返し、因果応報等が表出される。物語の原形を見た。 訳が一番好きグリム童話の初版を和訳したものはたくさんあるのですが、訳が違うだけで本当に雰囲気が違ってきます。なぜこれが一番好きなのかと言うと、ひとことで言うと古風なのです。というか実際古い。(リュックじゃなくて「背嚢」という風に)それから、原文がきつい方言のところはわざとなまった感じに訳してあります。飾ったところがなく、素朴な味わいです。
グリムの怖い話が読みたい、という人もいるでしょうが、これはとにかく全部収録してあるので絶対に読めると思います。アニメ風の絵本で親しんだ物語も、これで読むといかにもドイツの民衆に口づたいに広まったという感じがしてきます。
しかし、ディズニーの無菌状態の「ピーター・パン」よりもわくわくします。さらに、悪役は悪役でしかないディズニー版に比べ、それぞれのキャラクターが悪と善の両面を持っているため、どのキャラクターも愛せます。嫌いだったフックのことも好きになってしまいました。私はこの本を読んでピーターやフックの出生の秘密を知ることができ、とても嬉しく思いました。
そして物語の最後は涙なしでは読めません。大人になった時に無くした何かを見つけたような気がします。